ワークショップ・レポート

株主総会、今年の注目点

ワークショップ・レポート | 2019.5

このレポートは2019年5月22日開催したワークショップの抜粋です。

ワークショップ開催時のプログラムはこちら


日経バリューサーチは2019年5月22日、都内で「株主総会、今年の注目点」というタイトルでワークショップを開催しました。

日本経済新聞社の松﨑雄典・証券部次長は、今年の株主総会について「会社提案の議案に対して株主からの反対票が目立つ流れが続くだろう」と指摘。三井住友DSアセットマネジメントの齊藤太・責任投資推進室上席推進役シニアアナリストは、機関投資家の立場から議決権行使の具体的な考え方や方針などを解説していただきました。質疑応答では会場からの質問を受ける形で議論を進めました。

1. 反対票を投じたケースは? 投資家の傾向は?


松﨑雄典

2019年3月に開催された12月期決算企業の株主総会では、社外取締役の選任や退職慰労金などの議案に対して株主からの反対票が目立ちました。
賛成の比率が50%台と極めて低い水準にとどまるケースもありました。三井住友DSアセットマネジメントでは、ここ1年の議決権行使の中で、反対票を投じたケースはどんな議案が多かったですか。

齊藤太氏

当社が反対票を投じたのは、自己資本利益率(ROE)や業績基準に抵触するケースと不祥事関連が多いです。ただ、3カ月ごとに反対率をみると、3割前後で上がったり下がったりと、トレンドが大きく変化したわけではありません。当社は他社より厳しい基準を設けていると考えていますが、投資家全体でも判断基準は厳格化の流れのイメージがあります。

参考:国内株式議決権行使の反対率推移(旧三井住友アセットマネジメント)

参考:国内株式議決権行使の反対率推移(旧三井住友アセットマネジメント)
日経バリューサーチ、ワークショップ配布資料より

2. CGコード改定の影響・効果は?


松﨑雄典

コーポレートガバナンス・コードの改訂と、世界経済の減速に伴う企業業績の頭打ちという2つの大きな変化も見逃せません。コード改訂の骨子(下図参照)として、取締役会の役割・責任重視があります。取締役会が機能しているかどうか、どのような点をチェックしているのでしょうか。また、政策保有株についてのスタンスについてもお聞かせください。

CGコード改定の骨子

CGコード改定の骨子
齊藤太氏

議決権行使に関する取締役会についての判断には、「経営の結果責任」と「役員会の構成が将来の企業価値向上につながるか」という2つの切り口があります。女性や外国人がいることはまだ完全な必要条件になったとは言えず、企業との対話をベースに実態に則った総合判断を心掛けています。
また、政策保有株が減らないから、すぐに議決権行使で反対するというわけでもありません。これに関しても、例えば「自己資本に対する(政策保有株の)比率が高い」企業に対して「資本効率をどう考えているか」をテーマにした対話を行うなど、実態を把握することが重要です。

3. 企業でも高まりつつある資本コストの意識


齊藤太氏

2014年に経済産業省がまとめた「伊藤リポート」をきっかけに、ようやく企業にも資本コストの意識が高まってきました。最近はROIC(投下資本利益率)を重視する企業が増えていますが、投資家はむしろ、ROICからエクイティ部分を取り出した株主資本コストに注目しています。

松﨑雄典

議決権行使基準を変更する機関投資家が増えています。社外取締役の好ましい人数や、一律のROE基準に対する批判について、どう考えますか。

齊藤太氏

当社では議決権行使に関連して、見るべきポイントを明確にしています。
判断基準の主な考え方として、1つは業績やROEなど経営結果に対する評価です。ROEが上場企業の中央値を3年連続で下回り、実態などを考慮しても株主の視点で問題ありと判断した場合は、取締役の再任に原則として反対するなどの内容です。
ただ、例えば地方銀行はゼロ金利政策の影響で業界ぐるみで厳しい状況で、企業毎の裁量の余地が少ないために他の業種とは異なる対応を行うなど、判断基準に柔軟性を持たせていることも特徴です。

松﨑雄典

議決権行使助言会社は社外取締役の人数やダイバーシティ(多様性)について、賛成の条件を厳しくしようとしています。ある助言会社は今年から、主要企業に限定して、役員に1人も女性がいないと反対しています。

齊藤太氏

ダイバーシティについては、企業価値向上に貢献する役員であることを大前提として、その上で総合判断に努めています。もちろん、法律などで規制が課されれば、それに従います。助言会社の意見は参考にはしますが、議決権行使判断基準は独自のものを作成しています。

4. アクティビストの株主提案にも注目


松﨑雄典

今年の株主総会で注目される議案として
(1)経営トップの選任
(2)社外取締役の選任
(3)利益剰余金の処分案
(4)株主提案
の4つがあります。

齊藤太氏

基本的に、経営トップや社外取締役の選任の重要性は変わりませんが、加えて、剰余金処分と株主提案に対しては、より注目度が上がっているイメージがあります。
企業業績の足踏み状態があることを背景に、投資家の視線が配当や自社株買いを含めた株主還元に向いているイメージがある中で、アクティビストの株主提案、特に会社提案を上回る増配の株主提案というケースでは、配当を支払うことに無理がないと判断すれば賛成する可能性は高いです。
機関投資家は、常にアセットオーナーや最終受益者の利益を考えて行動すべだと考えています。

松﨑雄典

議決権行使と企業との対話についての考え方をうかがえますか。

齊藤太氏

ESG(環境・社会・ガバナンス)、議決権行使、資本効率、業績など投資先企業の価値向上に関するテーマについて対話し、業績予想に反映するなどしながら、株式市場全体の底上げにつなげたうえで中長期的な投資リターンを実現するのが、当社が考える責任投資のインベストメント・チェーンです。
企業価値の向上に結びつくかどうかが、機関投資家の議決権行使のよりどころです。

※ インベストメントチェーン
個人投資家が運用会社などの機関投資家に資金を預け、その機関投資家が企業に投資します。投資対象となった企業の業績が改善すれば、中長期的に企業価値が向上し、株価上昇や雇用拡大などを通じて投資家に還元されます。この一連の流れをインベストメントチェーン(投資の連鎖)といいます。

三井住友DSアセットマネジメントが考える責任投資のインベストメント・チェーン

三井住友DSアセットマネジメントが考える責任投資のインベストメント・チェーン
日経バリューサーチ、ワークショップ配布資料より
グループディスカッション/ネットワーキング
パネルディスカッション/グループディスカッションの様子
グループディスカッションの様子。活発な意見交換が行われました。

ワークショップで紹介された
日経バリューサーチの
「コーポレート・ガバナンス評価機能」はこちら

サマリ画面でガバナンス評価を一覧

サマリ画面でガバナンス評価を一覧

8軸の定量的な指標で一目瞭然

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約130のコーポレート・ガバナンス関連指標(評点)をもとに
企業のガバナンスの特徴を多角的にかつビジュアルに
把握できます。
  • 自社の企業統治度チェックや投資家との対話に活用できます。
  • ガバナンス評価を業種平均と比較することで、優れた点や改善点を明確化。
  • 資本効率

    ROA、ROE、営業CF総資産比率など

  • 外部からの規律

    外国人持株比率、安定保有比率など

  • 資本政策

    株主還元比率、配当性向、売上高流動性比率など

  • 株式市場評価

    トービンのQ、株式リターン3年平均、PBRなど

  • 取締役会

    取締役会人数、任期、指名委員会等設置など

  • 情報開示

    決算発表タイミング、ウェブサイトの充実度など

  • 役員報酬

    社長持株比率、ストックオプション制度など

  • 有効性

    経営者の交代、監査意見、リスク情報の有無など

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