コラム2026.5

企業分析の成否を分ける「業種分類」の考え方と実践的アプローチ

アンケート調査や顧客リストで使われる「業種」の選択肢。多くのビジネスパーソンが、当たり前のものとして何気なく利用しているのではないでしょうか。しかし、その設計次第で、分析から得られるインサイトの質は大きく変わります。そして現代のビジネス環境は従来の業種分類では捉えきれないほど複雑化しています。

本コラムの前半では、公的な分類をはじめとした多様な業種分類を紹介し、“分類しにくい”企業が増えている背景を紐解きます。
後半では、これらの課題を踏まえ、調査や分析で失敗しないための、実践的な業種分類の設計思想を具体的にご紹介します。

日本における業種分類の基本、「日本標準産業分類」

日本標準産業分類とは、総務省が定める統計基準であり、統計調査の結果を産業別に表示する場合の統計基準として利用されるものです。

少し硬い表現ですが、簡単に言えば、日本のすべての事業所を一定のルールに則って分類するための「共通言語」と言えます。国勢調査をはじめとする公的統計の正確性を保ち、国際的な比較を可能にするという重要な役割を担っています。

この分類に馴染みがなくても、多くの方が「第一次産業」「第二次産業」「第三次産業」という言葉は聞いたことがあるのではないでしょうか。これは日本標準産業分類の大きな括りの一つです。

  • 第一次産業: 農業、林業、漁業など
  • 第二次産業: 鉱業、建設業、製造業など
  • 第三次産業: 卸売業、小売業、金融・保険業、不動産業、サービス業など

日本標準産業分類は、この大きな括りをベースとした階層構造で成り立っています。

現在使われている最新版では、まず全ての産業が20の「大分類」に分かれており、さらに「中分類」「小分類」「細分類」へと枝分かれしています。基本構造は1949年の制定以来変わっていませんが、事業構造の変化に合わせて14回の改定を重ねています。

複数の業種分類からみる業種の「揺れ」

「日本標準産業分類」は、あくまで公的統計を作成するための基準です。
実際のビジネスシーン、例えば投資家向けの市場分析や、各社が保有する企業のデータベースなどでは、それぞれの目的に応じてカスタマイズされた独自の業種分類が用いられています。

下の図は、縦軸に東京証券取引所(以下、東証)の「33業種分類」、横軸に日本経済新聞社(以下、日経)の紙面用業種をとり、企業数をプロットしたものです。

複数の業種分類からみる業種の「揺れ」

「食料品」や「建設業」のように、双方で概ね一致する分類がある一方、見方によって解釈が割れる業種も少なくありません。

その一例が「卸売業」です。東証分類で「卸売業」とされる企業は、日経の分類では「商社」だけでなく、「食品・アグリビジネス(例:横浜魚類)」、「素材・エネルギー(例:ミツウロコグループホールディングス)」など多岐に分散しています。

これは「卸売業」といっても、総合商社のような企業から、食品や医薬品、化学品などを専門的に扱う「専門商社」まで、その事業内容が大きく異なるためです。

何を卸しているかという専門性を重視するか、取引形態を重視するかという視点の違いによって、業種の分類が変わってくる例といえるでしょう。同じ企業でも、誰がどんな目的で見るかによって「所属」は変わりうるのです。

業種分類はなぜ難しいのか

では、なぜ業種分類はこれほど難しいのでしょうか。主な要因として3点が考えられます。

要因1: 多角化/事業ポートフォリオの変化

企業の規模が大きければ大きいほど、様々な事業を展開しているのが普通です。
そのため、そもそも1つの企業に1つの業種を付けること自体が難しいケースがあります。(これを解決するために、1社に複数の業種を付与するという考え方もありますが、分析の観点からいうと扱いづらい・分かりづらいといったリスクがあります)

また、企業の姿は常に変化し続けています。M&Aや事業転換により創業時の業態とは全く異なる事業が収益の柱となっている企業も珍しくありませんが、一度付けた業種は変更するタイミングが難しい場合もあります。例えば日清紡ホールディングスは元々紡績の会社ですが、現在はエレクトロニクスと自動車部品を主な事業としています。

時系列で分析を行う場合、途中で業種を変更するとデータに断層が生まれ、比較可能性が損なわれるという問題もあります。特に業種を代表する大手企業の業種変更などは、安易には実施できないのが実情です。

要因2: 非製造業の多様化・細分化

現行の業種分類の多くは、製造業が経済の中心だった時代に骨格が作られたため、製造業の分類は細かく、非製造業(特に情報通信やサービス業)は比較的大きな括りになっているのが一般的です。

しかし近年設立されている新しい企業は非製造業が多く、かつて「情報・通信業」「サービス業」と一括りにされていたビジネスが、IT、コンサルティング、SaaS、人材サービスなど多様化しているのは皆さんご存じの通りで、業種分類がこの時代の変化に十分に対応しきれていないという現実があります。

要因3: 製造業と非製造業の境界の曖昧化

先に述べてきた通り、多くの業種分類はまず第一次~第三次産業、または製造・非製造で大きく分けた後に枝分かれしていく構造で作られているのですが、近年はハードウェアとシステム運用を一体で提供するSIerや、モノの販売と併せてコンサルティングや保守サービスを提供する製造業など、「モノ作り」と「サービス提供」の垣根が曖昧になってきているため、枝分かれの構造とうまく合わない企業が出てきていると考えられます。

例えば日本電気(NEC)や富士通は、東証分類では「電気機器」ですが、日経の分類では「情報・通信」となっています。


このように、公的な基準を基本としながらも、ビジネスの実態は多様化・複雑化し、画一的な業種分類では捉えきれない企業が増えています。調査や分析の現場では、この現実と向き合わなければなりません。

では、このような複雑な状況の中で、私たちは本当に「使える」業種分類をどのように設計していけばよいのでしょうか。

明日から使える!
調査・分析の精度を上げる「業種分類」の考え方

視点1: 分析の「軸」に合っているか

最も重要なのは、その業種分類が「何を知りたいのか」という分析目的に合致しているか、という点です。分類すること自体が目的になってはいけません。

より具体的に考えてみましょう。例えば、企業の「研究開発投資」の動向を分析したいとします。公的な分類(日本標準産業分類)では、「医薬品製造業」は「化学工業」という大分類の一部として扱われます。しかし、新薬開発に莫大な先行投資を必要とする医薬品ビジネスと、機能性素材や汎用的な化学品を扱うビジネスとでは、研究開発費の性質や売上高に占める比率が全く異なります。

この2つを同じ「化学工業」として合算・平均して分析してしまうと、それぞれの業界の実態からかけ離れた、誤った示唆を導き出しかねません。この場合、分析の目的に合わせて「医薬品」を独立した分類として切り出し、他の化学分野と比較することが不可欠です。

このように、既存の分類を鵜呑みにせず、分析の軸に立ち返ることが重要です。他にも、「製造業と非製造業のDX化の進展度合いを比較したい」のであれば、境界の曖昧な企業をどちらに含めるか明確なルールが必要ですし、「BtoB企業とBtoC企業のマーケティング手法の違い」を知りたいなら、事業モデルを軸に企業を再編成する方が有効でしょう。

まずは「どんな仮説を検証したいのか」「何を比較したいのか」を自問することが、全ての出発点となります。

視点2: 分析に足る「数」を確保できるか

特にアンケート調査では、各分類に含まれる企業数が、意味のある分析を行えるだけのボリュームになっているかが重要です。どんなに論理的に美しい分類を作っても、各カテゴリの回答社数が数件では、その結果は単なる個別の意見に過ぎず、「傾向」として語ることはできません。極端に社数が少なくなる分類は、「その他」への集約や、より大きな括りへの統合といった実務的な判断が求められます。

前掲の『複数の業種分類からみる業種の「揺れ」』を改めて見ると、日本標準産業分類に近い東証の【33業種区分】では「水産・農林業」の上場企業数が極めて少なく、単独での分析は困難です。そこで、より大括りな【17業種区分】では、事業内容が近い「食料品」と統合し、分析に足るサンプルサイズを確保していることが分かります。

また「その他製品」という区分も扱いの難しい業種です。分類に窮した企業を「その他」で括ることは有効ですが、この区分は多様な企業の集合体であるため、業種別の分析対象からは外れがちです。対照的に、日経の分類では「その他」を設けず、事業内容から最も近いカテゴリに割り振る方針をとっていることが見て取れます。

ある程度のボリュームを確保することが重要である一方、「情報・通信業」や「サービス業」は所属社数が多すぎることが気になる方もいるかもしれません。これらの業種はここまで見てきた通り、元の業種分類がざっくりしすぎているために、かなり性質の異なる企業が同じ業種に分類されてしまっているともいえます。分析したい内容によっては、もう少し実態に合わせて細分化する必要があるかもしれません。

視点3: 他のデータと「結合」できるか

最後に少し発展的な視点として、将来的に他のデータと組み合わせて分析する可能性も考慮しておくと、データ活用の幅が大きく広がります。

例えば、自社の満足度調査と外部の企業信用調査データを結合したい場合、双方の業種分類の定義が全く異なると正確な分析は困難です。あらかじめ日本標準産業分類のコードを併記しておくなど、外部データとの「互換性」を意識した設計も、今後は求められていくと思われます。

まとめ

業種分類に、唯一絶対の正解はありません。重要なのは、「目的適合性」「統計的妥当性」「データ連携性」といった戦略的な視点を持ち、分析対象と向き合うことです。そして必要であれば、既存の分類を疑い、自ら最適な「ものさし」を作り替える姿勢が求められます。

本稿が、皆様の会社で使われている業種区分を見直し、データからより深いインサイトを引き出す一助となれば幸いです。


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この記事を書いた人
堀江 晶子(日経リサーチ・デジタルキュレーション本部 DC第3部 部長)